甲殻類の脳をとりまく血リンパ中の液性調節物質を研究するにはマイクロダイアリシスHPLC法が適当と考え申請した。今年度はこの方法が適用できるかどうか、行動と連関させ、採血HPLC法で検討した。採血方法を開発するため、超遠心分離だけの場合や、キレート剤の使用、煮沸などを試み、アミン類ではキレート法、アミノ酸類では煮沸法が適当であることを決定した。ヤドカリ類、ザリガニ、ロブスターいずれの血リンパ中においても、既知の生体アミン類(ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン、セロトニンおよび代謝産物)とアミノ酸類(グルタミン酸、γアミノ酪酸)が検出できた。特にザリガニとロブスターで威嚇行動に連関して、ドーパミン、セトロニンおよびその代謝産物の濃度変動が観察された。ロブスターではテストした個体8匹中検出できた個体6匹のすべてでドーパミンが威嚇行動にともなって増加した。ザリガニでは血液量が少ないので個体識別して比較分析することは不可能であったのでデータをプールしたが、全個体の平均値(n=8)で、有意に、威嚇行動中の個体でセロトニン量が増大した。同時にセロトニンの代謝産物5-HIAAが有意に減少した。その際、GABA等のアミノ酸濃度はまったく行動に連関しないことが分かった。また、アミン類の濃度はマイクロダイアリシスHPLC法の検出限界付近にあることが明らかになり、従って、マイクロダイアリシス法は技術的には必ずしも優れた方法ではないが他に物質濃度を測定する方法が開発されない限り、この方法で血中濃度を測定するのが当面の最適手段であると結論された。特にロブスターで顕著であったが、アミン類の濃度は個体差が著しいことが分かったことから、ベースラインレベルの濃度の違いによる神経系の働きのばらつき生じ、最終的には動物の個性をつくり出すのではないか、言い換えれば、アミン物質の精神神経生理機能が浮き彫りになるかもしれないという将来の展望が開けた。
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