コオロギの巨大介在ニューロン(giant intemeuron : GI)を材料として、単一神経細胞内活動を高速イメ一ジング法によって可視化し、細胞内の局所的演算機能を明らかにすること試みた。その結果、カルシウム濃度感受性蛍光色素Oregon green BAPTA-1とフォトダイオード・アレイおよびIntensified CCDカメラシステムを用いて、単発の活動電位に伴う一過性の細胞内カルシウム濃度上昇(Ca transient)を捉えるのに成功した。このCa transientは活動電位数と頻度に依存し、また、受容体チャネルからの流入や代謝型受容体を介した細胞内ストアからの放出によるものではなく、電位依存性チャネルからの流入によるものであることが確認された。一方、左右の尾葉神経束をそれぞれ刺激したところ、刺激する神経束によってGI樹状突起内のCa transientのamplitudeが異なった。これらの結果から、GI内Ca濃度変化がシナプス入力に依存するメカニズムについて、次の2つの可能性が示唆された。 1.GIの樹状突起内を逆伝搬する活動電位によるCa transientがシナプス入力によって増幅される。 2.GI内における活動電位発生部位/伝搬様式自身がシナプス入力によって変化する。 そこで、GI軸索への逆行性刺激とシナプス刺激で誘導されるCa transientを比較したところ、逆行性活動電位が引き起こすCa transientは、シナプス刺激誘導性活動電位によるCa transientよりも小さかった。さらに逆行性活動電位と閾値下のEPSPを同期して発生させた場合のCa transientは、逆行性活動電位のみの場合のものと有意な差は見られなかった。以上の結果から、GI内の逆行性活動電位誘導性Ca transientはシナプス入力の有無によって修飾されないことが分かった。
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