研究概要 |
1.社会的経験が攻撃性におよぼす影響:羽化前後を通しての隔離は雄だけでなく雌に対しても高い攻撃性を保持することがわかった。一方、羽化前を隔離し羽化後集団飼育した場合でも雌を攻撃するが攻撃性は低かった。攻撃性の決定には発育過程の接触刺激が深く関わっている。2.社会的経験が性行動の発達におよぼす影響:隔離個体は性行動の発達が遅れるが、それとは相反的に雌への攻撃が減少した。性行動と闘争行動の選択決定に関わる液性調節機構が存在する可能性が高い。羽化前後を通して隔離しても、羽化後3日を経過すれば雌に対する正常な行動選択、つまり性行動を示すようになり、羽化後の社会的経験はそれを促進することがわかった。3.短期的および長期的経験が攻撃性におよぼす影響:攻撃性は生育環境によって決定されるだけでなく、前の闘争や性行動といった短期的な経験によっても決定されることがわかった。4.神経作用物質の薬理効果:生体アミンなどの神経作用物質を腹腔内に注入し攻撃性への影響を調べた結果、octopamineは攻撃性を高め、serotoninとphentolamineは下げることがわかった。5.攻撃性に関連した脳内アミンの分析:最も高い攻撃性を示す透明隔離コオロギと集団飼育コオロギの脳内アミンを分析した結果、隔離個体はoctopamine, serotonin, dopamineのレベルが有意に低く、Nac-dopamineが高いことがわかった。6.社会的経験が行動選択におよぼす影響:羽化前後を通して隔離した場合、雌は交尾ができるようになる一方で雌を頻繁に攻撃し続けた。これは隔離によって行動の選択機構が修復できない状態になっていることを意味している。しかし、羽化後の集団飼育によってほぼ正常に近い行動選択をするようになった。幼虫期の社会的経験のみならず、羽化後の社会的経験も本脂行動の発達や行動の選択に影響することが明らかになった。以上の結果より、微小脳においても本能的行動の正常な発現には、社会的経験が必要であることが明らかとなり、行動の選択・決定の中枢機構の解明に向けた具体的な基盤を確立することができた。
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