研究概要 |
<行動解析>昆虫の湿度環境を検索し特定の湿度環境に留まる行動をワモンゴキブリを用いて解析した。定常的な湿度勾配のある円形のアリーナに4日間無摂水のワモンゴキブリを入れると、装置内の側壁にそって走り回る行動の後、乾環境よりも湿環境に長く滞在するようになった。そのおもな行動学的原因は、湿環境では乾環境での行動と比較して、1)空間的な移動を伴わない行動が増加すること,2)歩行速度が低下すること、3)歩行の曲がり(deg/cm)が増加することにあることがわかった。次に、摂水場所に到達する行動について解析し結果、摂水場所を発見し到達するまでの行動は、先ず1)高湿度を検出して立ち止まり、2)立ち止まったまま、触角と首を振って湿度勾配を検出(水のある方向を検出)し、3)より高湿度側に向かって歩行することの連続的な行動で組み立てられていることがわかった。 <生理・形態学的解析>ワモンゴキブリの湿度温度感受性の中大脳投射ニューロンについて細胞内記録染色を行い、応答特性とニューロンの形態的特徴を明らかにした。湿度および温度受容ニューロンが中大脳触角葉の特定の糸球体複合体に終末していることは明らかにしていたが、今回の実験によって湿度および温度感受性の中大脳投射ニューロンの入力部位はこれらの糸球体複合体であることが明らかになった。投射先は前大脳の側葉とキノコ体傘部の特定の場所であることが判明した。さらに側葉には機能的部域性があり、中大脳湿度感受性ニューロンと中大脳温度感受性ニューロンの投射先は側葉内の異なる部分であることが判明した。また、分子遺伝学手法による研究結果から、脊椎動物の嗅球やショウジョウバエの触角葉では特定の受容タンパク質を発現している1種類の嗅感覚ニューロンは特定の1つの糸球体に終末するとされているが、今回の結果からこの1対1の関係は必ずしも一般化できないことが明らかになった。
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