最初の目標であったCa^<2+>-ATPaseの高分解能での構造決定はカルシウム結合時の構造に関して、2.6Å分解能で決定できた。これを踏まえ、本年度は(i)分解能の向上をはかることと(ii)脂質二重膜との関連を明らかにすることを目標とし、特に(ii)に重点を置いた。(i)に関しては、試料を室温にさらすことなく急速凍結できる装置を試用したところカルシウム非存在下の結晶においては非常に有効であり、作業能率も著しく向上することがわかった。また、(ii)の脂質二重膜の可視化の為には変化脂質や溶媒のコントラスト変調法を検討した。この2つの方法では得られる情報が異なるため、両方とも実行することを計画している。しかるにSpring-8でのデータ収集に関して、測定系が確立していないため、溶媒のコントラスト変調のみを実行した。コントラストを変えるためには、溶媒の密度を変える必要があるが、重原子による異常散乱効果も利用できるよう反応性の低い金チオグルコースを利用することをまず試みた。種々の濃度を試した結果、15%程度までしか上げられないことが判明した。一方、試料の安定化の為に用いているグリセロールの濃度を上げることも検討したが、結晶が壊れてしまうことが判明した。そこで、sucroseを用いたところ、30%まで結晶は破壊しないが、反射能は落ちることもわかった。さらに、結晶化の際に加えているPEGの濃度との関連も調べている。
|