研究概要 |
ヒトのリソソーム糖タンパク質のα-ガラクトシダーゼとその基質類似体との複合体のX線結晶構造解析を行い,本酵素そしてこれに高い相同性を示すα-N-アセチルガラクトサミニダーゼの機能と疾患との関わりを三次元構造に基づいて解明することを研究の目的とした。α-ガラクトシダーゼの遺伝子変異は,糖セラミドからガラクトースを水解脱離させる本酵素の活性の低下をもたらし,ファブリー病を惹起する。ファブリー病は,早期発症で酵素活性が認められず,血管系の内皮細胞,腎臓,心筋や神経節細胞に糖脂質が蓄積して致命的な経過をとる古典型と,晩期発症で低い酵素活性が認められ,心臓肥大などの症状を示す亜型に大別される。α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの遺伝子変異は神崎.シンドラー病の代謝異常症を惹起する。 両酵素について,メタノール資化酵母によりタンパク質を大量に発現させ,アスパラギン結合型糖鎖の短糖鎖化とHPLC精製を行い,結晶を析出させた。分子量約9万のホモダイマーであるα-ガラクトシダーゼについては,基質類似体N-(N-benzyloxycarbonyl-6-aminohexyl)-α-D-galactopyranosylamine,BAGをネーティブ結晶に導入した。得られたα-N-アセチルガラクトサミニダーゼの結晶は微小のため,試料の高純度精製法の改良を進めた。 α-ガラクトシダーゼの斜方晶系結晶についてまず分解能2.6Aで構造を得たのち,阻害剤BAGとの複合体の結晶について分解能2.5Aの構造を得た。その結果,本酵素では,糖鎖がAsn139,Asn192とAsn215に結合していること,活性の触媒作用にはAsp231とAsp170のカルボキシル側鎖が関わること,さらに,これら酵素での基質特異性と活性低下の構造基盤を明らかにできた。
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