研究概要 |
固体NMR測定のために安定同位体を用いたF_oF_1-ATP合成酵素サブユニットcの調製法を確立した。アミノ酸配列特異的に同位体標識を行える有機化学的な方法では,最初に79残基の全配列を固相法で一度に合成する.cサブユニットの精製は,主に逆相HPLCを用いて行う.この方法の収率は5%程度であったので,同位体標識アミノ酸に多大な投資をすることなく,固体NMR試料を作れるようになった.^<13>C,^<15>N完全標識には,大腸菌の大量発現系を用いた.精製法は,SDSなど界面活性剤を用いる方法とCHCI_3など有機溶媒を用いる方法を検討した.その結果,有機溶媒を用いる方法で効率よく精製できることがわかった.今年度はこの方法で,Glyの^<15>Nのみを標識したアミノ酸培地で発現させることにより,20mg程度の標識サブユニットcを得ることができた.また,この試料の^<15>N-固体NMR測定から,サブユニットcを生体膜に再構成できていることを示唆する結果を得た. これら試料を用いることにより,固体NMR法で構造解析ができると考えられる.このことを明らかにするために,シミュレートした3次元固体NMRのスペクトルから各残基の信号を分離して帰属できるかどうかを調べた.その結果,信号幅が1ppm程度ならば,3種類の3次元等方化学シフト相関スペクトルを測定することにより,ほぼすべての信号帰属が可能なことがわかった.また,今年度はこれ以外に,相関スペクトルの感度を向上させる新しいパルス系列も作り,それを^<13>C標識アミノ酸について実証した. これら試料調整法と測定法の確立により,次年度以降のサブユニットcの固体NMR解析のための基礎ができた.
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