研究概要 |
タンパク質中の長距離電子移動は電子供与体と電子受容体の間に挟まれた領域の構成原子の波動関数を媒介にして起こる。この機構はスーパーエクスチェンジ機構と呼ばれている。そのため、個々のタンパク質電子移動系はそれぞれの3次元立体構造に依存した性質をもっている。そこで我々はその性質を調べるために、電子移動反応に関与する重要な波動関数の空間的な分布、すなわち電子移動経路を求める方法の確立を目指している。我々はこれまでにタンパク質中長距離電子移動経路を任意の構成原子間のトンネリングカレントを用いて表現する手法を開発してきた。近年、X線結晶解析法により巨大な電子移動タンパク質複合体の立体構造がとかれている。われわれは、これまでの手法をこれらの巨大な系に適用するため、さらに計算の手法を開発してきた。本研究ではチトクロームc酸化酵素の内部における電子移動反応を解析した。チトクロームc酸化酵素は生物の呼吸系で生体エネルギー変換に関与する巨大なタンパク質複合体で、複数の金属イオンやヘムを内部に持っている。それらの金属中心の間では決まった順番で電子移動反応が起こることが指摘されている。我々は各々の金属中心の間の電子移動反応速度定数の電子因子を計算し、お互いに比較することによって、金属中心間の電子移動反応の順序を検証することに成功した。本研究では系のサイズを制限するために、電子供与体と電子受容体を含み、電子移動反応に重要な寄与をしているサブユニット1,2を考慮して計算を実行した。現在サブユニット内部に存在する水分子の影響やタンパク質分子の熱揺らぎの効果を考慮して、さらに詳細な解析をすすめている。
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