研究概要 |
大腸菌由来NifS相同タンパク質CsdBの結晶構造を2.5Å分解能で解析した。放射光から得られる単色X線を用いて-173℃で収集した35,679個の独立な回折反射データに対して昨年2.8Å分解能で決定した構造を初期モデルとしてプログラムXPLORを用いて構造精密化をした処、R値17.1%、Rfree値19.5%の構造を得た。本研究で決定したCsdBの構造は、NifS相同タンパク質としては世界初の構造例となったが、NifSタンパク質により類似していて後に構造決定された超高温古細菌Thermotogamartima由来NifS相同タンパク質(tmNifS)との構造比較によってNifSタンパク質の構造特性を明らかにすることができた。両者はアミノ酸配列で23%の相同性を有し、319個のCα原子に対するRMS変位値が1.5Åで立体構造上も全体的に類似している。両者の構造上の大きな違いは、CsdB上のβ-ヘアピンループ領域(残基番号255-271)と活性残基Cys364が含まれる伸張部(残基番号362-375)に観られる。これらの領域は、酵素二量体の異なるサブユニットから突出してきて活性部を構成している。tmNifSでは、CsdB上のβ-ヘアピンループ領域は13残基の欠損によって消失しており、代わりに活性残基Cys324を含む伸張部は10残基の挿入でより突出していると考えられる。CsdBではこの伸張部および活性残基は定まった構造をとっているが、tmNifSでは挿入によって伸張部がCsdBに比べてより柔軟性を持つためにそれらの位置が電子密度図上で観察されない。活性残基を含むこの伸張部における両者の柔軟性の違いによって、両酵素は基質側鎖のβ位に位置する原子がセレンであるかシスティンであるかを認識し区別してそれぞれに特有の酵素活性を発揮しているのではないかという考えを抱かせる。
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