分解能に限界のあるX線結晶回折データーを用いながらも、より詳細な蛋白質モデルを構築し、可能な限り多くの情報を結晶構造から取り出す方法を開発することが目的である。モデルを詳細にすることは、多くの場合回折データに含まれるノイズへのバイアスを引き起こし、Free-R因子を上昇させることになる。そこで、Free-R因子を上昇させることなしに、詳細な蛋白質モデルを構築する方法を開発した。その方法として、(1)水素原子を周辺原子の座標値を使ってrigidbodyとして発生する、(2)結晶中のMDシミュレーションから推定される運動の主軸解析から求めた基底を水素を含めた異方的温度因子計算に用いる、という方法を確立し、1.4Aのヒトリゾチームの100-200KでのX線結晶構造解析に適用し、水素原子の位置を含めたすべての原子の座標と異方的温度因子を高精度で決定した。その結果、見かけの温度因子のガラス転移類似挙動が、外部運動(蛋白質の結晶格子中の剛体運動)に起因するものであることが分かった。
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