研究概要 |
我々は,基質遷移状態概念に基づいて論理的にデザインし,高活性のHIVプロテアーゼ阻害剤キノスタチン(KNI)-272を合成した.この方法をさらに発展させて,HIVプロテアーゼとそのアナログを固相法により化学合成を行い,基質や阻害材と複合体を形成して相互作用の解析をX線結晶解析,NMR,分子モデリングなどの手段を用いて行った.すなわち基質,阻害剤分子単独のコンフォメーションと,超分子形成時のコンフォメーションとの詳細な比較解析を行った.超分子形成は,従来鍵と鍵穴のような固定物として捕らえててきたが,コンフォメーション変化という動的観点で解析を進めた. その結果,酵素・阻害剤複合体形成時,活性中心のアスパラギン酸(Asp25とAsp125)のイオン化状態が,結合しているプロテアーゼ阻害剤のタイプにより異なり,従来同一の作用機構を有すると考えられていた活性中心標的型プロテアーゼ阻害剤がそれぞれ異なるメカニズムにより酵素阻害作用を発現することを明らかにした.また,KNI-272の異性体であるトリペプチドHIVプロテアーゼ阻害剤KNI-529が、HIVプロテアーゼとの複合体中で,解離することなしに配向に反転させているという興味ある事実も示した. これらの結果は,HIVプロテアーゼと阻害剤の動的な相互作用機構を解明するうえで重要であり、新規高活性・高選択性HIVプロテアーゼ阻害剤の分子設計に大きく貢献するものと期待される.
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