アデノウイルスによる甲状腺ホルモントランスポーターの遺伝子導入と神経の可塑性制御

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11170206
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 阿部 高明 東北大学, 大学院・医学系研究科, 助手 (80292209)
• 研究分担者: 原田 志津子 金沢大学, がん研究所, 助手 (10218646)
• キーワード: トランスポーター / 甲状腺ホルモン / アデノウイルス / 可塑性 / プロスタグランジン / 胆汁酸 / ロイコトリエン / 海馬

研究概要

発達期におけるニューロンの形態形成、シナプス形成において甲状腺ホルモンが重要な働きをしていることが知られており、ホルモンの欠乏が知的障害をともなうクレチン病の原因である。甲状腺ホルモンはトランスポーターを介して形質膜を透過し細胞内に取り込まれることが示唆されていたが、研究代表者は近年、中枢神経系に発現しており甲状腺ホルモンを輸送する2つのラット有機アニオントランスポーターoatp2およびoatp3を世界に先駆けて単離した。in situ hybridizationおよび抗体の結果からoat2は海馬錐体細胞や小脳プルキンエ細胞などの神経細胞と脈絡叢に、oatp3蛋白は網膜、脈絡叢、視上核、大脳皮質錘体細胞に発現していることから、どちらも中枢神経系に甲状腺ホルモンを輸ぶトランスポーターであり血液脳関門、血液髄液関門を構成・制御しニューロンの発達や可塑性を制御する重要な機能を持つ分子であると考えられた。
研究代表者はラット大脳よりプロスタグランジンD2を輸送する新規有機アニオントランスポーターmoat1を単離した。単離されたcDNAのアミノ酸配列はLST-1、oatp family、プロスタグランジントランスポーターに相同性が高かった。moatlの蛋白は、有機アニオントランスポーターに共通の12箇所の膜貫通領域を持つと推測された。moat1のmRNAは全ての臓器に4.4キロと2.3キロの転写産物が認められた。また、moat1のヒトのホモログと考えられるクローンKIAA0880の転写産物(4.4および2.2キロ)もまた全てのヒト臓器に認められた。さらに2つの転写産物の発現量は各臓器によって異なっていた。moatlを発現させた卵母細胞は特異的にプロスタグランジンD2、ロイコトリエンC4、タウロコール酸を細胞外のナトリウム非依存性に輸送した。moatlのmRNAは中枢神経系の神経細胞に広く分布していたが特に海馬と小脳に強く発現していた。以上からmoat1はその構造と基質特異性の点からみて既知の有機アニオントランスポーターとは異なる全く新しいトランスポーターであると結論づけた。

研究成果

• [文献書誌] Abe T.et al.: "Identification of a novel gene family encoding human liver-specific organic anion transporter LST-1"J.Biol.Chem.. 274. 17159-17163 (1999)
• [文献書誌] Abe T.et al.: "Molecular characterization and tissue distribution of a new organic anion transporter subtype(oatp3)that transport thyroid hormones and taurocholate"J.Biol.Chem.. 273. 22395-22401 (1998)
• [文献書誌] Kakyo M.et al.: "Molecular characterization and tissue distribution of a new organic anion transporter subtype(oatp3)that transport thyroid hormones and taurocholate"Gastroenterology. 117. 770-775 (1999)
• [文献書誌] Kakyo M.et al.: "Molecular characterization and tissue distribution of a new organic anion transporter subtype(oatp3)that transport thyroid hormones and taurocholate"FEBS Lett.. 445. 343-346 (1999)
• [文献書誌] Tokui T.et al.: "Pravastatin,an HMG-CoA reductase inhibitor,is transported by rat liver organic anion transporting polypeptide,oatp2"Pharmaceutical Res.. 16. 912-916 (1999)