視野に複数の物が提示されたとき、物の色と形の特徴を統合する課題はバインディング問題と呼ばれる。そうした特徴を統合する能力が発達過程でどのように獲得されるかはわかっていない。そこで、0〜1ヶ月児20人、2ヶ月児25人、3ヶ月児23人、4ヶ月児22人に対して、形(丸顔/三角顔)と色(赤/緑)の組み合わせからなる二つの図形をコンピューターディスプレイに提示して、注視行動の馴化を起こした後、色と形の組み合わせだけを変えた図形に脱馴化が起きるかどうかを調べた。ただし、各試行は被験児の自発的な注視の開始と停止によって決められ、被験児が注視していない時に左右の図形の位置を入れ替え、図形を左右に動かして注意を引くという工夫をした。半数の被験児には、馴化基準に達した後も同じ図形を2回提示し、そのときの注視時間の変化を新しい組み合わせの図形を提示したときの注視時間の変化と比較した。その結果、0〜1ヶ月児と3ヶ月児では有意な脱馴化が見られたが、2ヶ月児と4ヶ月児では有意な脱馴化がなかった。そこでさらに、課題遂行中の累計注視時問や眼球運動等を調べたところ、2ヶ月児が極端に長い注視時間を示すことや、3ヶ月児だけが繰り返し左右の図形の間のサッケードを行うことがわかった。これらの結果から以下のような発達過程における変化が考えられる。0〜1ヶ月では特徴のモジュールは未分化なため、バインディング問題を生じることなく、物の違いの識別が可能である。2ヶ月には特徴のモジュールの分化が起るが、頭頂葉障害患者で見られるような強制注視により複数の図形の統合が困難になる。そして、3ヶ月になると物の特徴を担う腹側視覚経路と物の位置を担う背側視覚経路とが統合され選択的注意機構が生じることで、複数の物の特徴のバインディングが可能になる。
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