嗅球の軸索は、発生時、終脳の非常に狭い領域を選択的に伸長し、嗅索と呼ばれる軸索束を作り上げる。我々の作成したモノクローナル抗体lot1は、嗅球軸索の伸長に先だって、この軸索が将来伸長することになる経路に帯状に結合する。伸長してきた軸索は、この抗体で染色させる経路を正確に選んで伸長し、軸索伸長が終了すると同時に抗体による染色性は認められなくなる。すなわち、この抗体の抗原分子(lot1抗原)の時間的空間的な分布は、僧帽細胞の軸索伸長パターンと非常によく一致している。これまでにこのような発現パターンを示す分子は全く報告されておらず、lot抗原が僧帽細胞軸索ガイドに関与する可能性が期待できる。そこで本研究ではlot抗原のクローニングをめざした。 当初lot1抗体を用いた免疫沈降により、抗原分子の同定を試みたが、失敗に終わった。western blottingでも反応物が検出できない事も考え合わせると、lot抗体は界面活性剤に非耐性のエピトープを認識している可能性が考えられた。そこで、蛋白質を本来の構造に近い形で発現することができる哺乳類培養細胞を用いて、cDNA発現スクリーニングを行った。lot1抗原を最も豊富に発現するマウス胎生14.5日目胚の副嗅球からmRNAを調製し、cDNAを合成して、哺乳類細胞発現用ベクターpCAGGSに組み込んだ。このcDNAライブラリーを約100クローンのプールに分割し、それぞれをCOS7細胞にトランスフェクションして蛋白質を発現させ、モノクローナル抗体lot1で染色して陽性の細胞を検索した。約20万クローンをスクリーニングしたところ、強陽性の細胞を生じる1プールを同定することができた。このプールをさらに分割してトランスフェクションを繰り返し、最終的にlot1抗体に反応する膜蛋白質をコードしたcDNAクローン1種類を単離した。このクローンの詳細については、現在解析中である。
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