研究概要 |
非侵害性機械受容器を興奮させる触刺激は、通常は痛みを誘発しないが、末梢神経損傷時や炎症時には、痛みを誘発する。これをアロディニアという。神経成長因子(NGF)は胎生期では侵害受容ニューロンの生存に不可欠であり、胎生期および新生期のラットに抗NGF抗体を投与しても、侵害受容ニューロンの一部が消失するという報告がある。アロディニア成立に、神経ペプチドが関与するかを調べるために、脊髄内,終末から放出されて、痛覚過敏に関与する可能性のあるCGRP量を推定する戦略として、メリチンテストを行った。ハチ毒に含まれる発痛物質メリチンを皮下投与し、軸索反射性に末梢に放出されるCGRPによって生じる皮膚温の上昇をサーモグラフィーで記録した。このような記録はこれまで報告されていない。 1.正常動物の軸索反射性皮膚温の生後変化 メリチン50μlを足蹠に投与すると、2週齢以後のラットで、投与部位周辺の皮膚温の上昇がみられた。離乳直後の母親ラット(18-20週齢)では、皮膚温の上昇はみられなかったが、10週齢までのメスラット全例で、皮膚温の上昇が見られた。後根神経節のCGRP量はメスの性周期によって変化するという報告があるが、離乳直後のラット以外で皮膚温の上昇がメスラットでもみられたことから、痛覚過敏および軸索反射性皮膚温上昇を引き起こすのに必要なCGRP量はメスでも、充分存在すると考えられた。 2.抗NGF抗体投与ラット 出生当日から4週間、抗NGF抗体(3μl/g)を皮下注射し、5週から7週齢で、メリチンテストを行った。オスラット5匹中1匹、メスラット4匹中3匹で、軸索反射が消失した。唾液腺などのNGF量は、オスラットで有意に多い。そのため、オスでは抗NGF抗体の効果が現れにくくなり、侵害受容線維が消失せずに、軸索反射が保持されていたことが示唆された。
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