研究概要 |
中枢神経系ニューロンは、各々が占める位置と方向性を厳密に規定されており、誕生後組織内を遊走して配置し、軸索や樹状突起などの機能構造を分化して、回路網を形成する。小脳皮質の介在ニューロンである顆粒細胞は、小脳表層(EGL)で誕生し、軸索を小脳表面に平行に伸展しながら配行した後、極性を90度転換して小脳深部の内顆粒層に移動する。この遊走方向の転換は、顆粒細胞に内在する遺伝的プログラムに制御されると考えられているが、その分子的実体は明らかでない。本研究は顆粒細胞の遊走方向と形態極性を制御する分子機構の解明を目的とし、本年度はホメオボックス型転写因子Pax6に焦点を当てて解析を行った。移動前の未分化な顆粒細胞にはPax6が発現しており、Pax6変異動物では小脳に著しい形態異常が起こることが報告されている。顆粒細胞の分化におけるPax6の機能を知る目的で、EGLの未分化な顆粒細胞の形態をPax6変異動物と野生型で比較解析した。その結果、Pax6変異動物では顆粒細胞の軸索束(平行線維)が形成されず、軸索に沿った遊走が起らないためにEGLが肥厚し、分葉化が阻害されることが示唆された。さらに顆粒細胞の形態分化と移動能をEGLの微少片培養系を用いて解析した。TAG-1,Tau,MAP2等の発現から、Pax6変異顆粒細胞では、軸索形成は起るが伸長が阻害される結果、移動能に顕著な異常が見られること、またこれらの表現型は、Pax6の強制発現で回復することが明らかになった。以上の結果から、Pax6が顆粒細胞の形態分化と遊走に重要な役割を持つことが示唆された。
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