脳波のγ-band成分は、機能円柱ニューロン群の活動を周期的(20-70Hz)に同期化する時に発現し、統合概念の形成や短期記憶情報の再現に関与するとされている。視覚野でのγ-band波は、単一細胞レベルでの高頻度バースト発火の周期的発現と同期して現れ、個々のバーストは300Hz以上で発火する2-5発のスパイクより成り、バースト間間隔は15-50ms(20-70Hz)であると報告されたが、細胞外記録のため、バースト発火を担う内因的膜特性は不明であった。一方、研究代表者は、単一発火パターンしか示さない錐体細胞が、強い脱分極通電の反復刺激により、脱分極性スパイク後電位が増強され、それに伴い、周期的な高頻度バースト発火を示すようになることを初めて報告した。さらに、脱分極性スパイク後電位のイオン機序についての研究を行い、脱分極性スパイク後電位が、Ca^<2+>依存性のカチオン電流により担われていることを初めて明らかにした。ついで、その増強機構についての研究をおこない、以下のことを明らかにした。脱分極性スパイク後電位を担うCa2+依存性カチオン電流は、膜電位固定下では数秒間持続するslow tail電流として観察される。このslow tail電流は、カフェインによるCICRの増強により著しく増強される。こうした現象において、電流記録とカルシウム測光を同時に行った結果、カチオン・チャネルのCa^<2+>感受性が上昇していることが明らかとなった。こうしたカチオン電流の増強は、CaM KIIの阻害剤であるKN-62やAIP(autocamtide inhibitory peptide)の投与により阻害された。従って、CICRやIICRにより細胞内カルシウム・ストアーからのカルシウム放出が生じ、その結果CaM KIIが活性化され、それによりカチオン・チャネルのCa^<2+>感受性が増大し、バースト発火が引き起こされると結論することができる。こうしたガンマ帯脳波発現に関与する発火機構の解明は、シナプス伝達におけるLTPやLTDとは異なる新しい次元から、認知や記憶のメカニズムの解明に寄与するものである。
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