研究概要 |
脳機能は,神経回路網の作用の統合によって達成されるが,その機能的基本は神経細胞の興奮の伝導と伝達にある.伝導は神経細胞が興奮すると活動電位が細胞体から軸索末端へ下行する過程であり,伝達は活動電位が軸索末端に到達することによって,神経伝達物質が放出され,シプナス後膜に存在する受容体に作用し,その神経細胞を興奮させる過程である.この十数年間に,分子生物学あるいは細胞工学的手法によって,これらの過程に直接関係すると考えられる多種多様な受容体やイオンチャネルのような細胞膜貫通型タンパク質分子が同定され,そしてそれらの分子の生化学的特性が急速に明らかにされてきている.しかし,現時点において,これらの分子の特性を総合しただけでは,個々の神経細胞の持つ固有の興奮の伝導の特性やシプナス可塑性を十分に説明することはできない.これらを解明するには,個々の機能分子の生化学的反応の解析だけではなく,その分子の膜上における微細局在,分布密度やそれに関連する他の分子との位置関係というような「場」の情報が必要であろうと思われる.本研究では,私たちはsodium dodecyl sulfate(SDS)処理フリーズフラクチャーレプリカ標識法を用いて神経伝達物質受容体,主としてチャネル型ならびに代謝調節型グルタミン酸受容体,GABA受容体のシナプス領域あるいはシナプス外領域の神経細胞膜上における二次元的な分布状態を解析することを目的とする.本年度は,代謝調節型グルタミン酸受容体3と水チャネルであるアクアポリン4がアストロサイト細胞膜で共存して存在しており,orthogonal arrays of particlesと呼ばれる特殊な構造を形成していることを明らかにした.
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