研究概要 |
我々はこれまでにコロニー刺激因子の1つであるエリスロポエチン(EPO)がスナネズミー過性前脳虚血モデルにおいて、海馬CA1領域の遅発性神経細胞死を抑止することを発表した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95,4635-4640,1998)。昨年度の本研究では、スナネズミ一過性前脳虚血モデルより重篤でかつヒトの病態に近い脳卒中易発症高血圧自然発症(SH-SP)ラットの中大脳動脈皮質枝永久閉塞モデルを用いて、EPOの神経細胞保護効果をしらべた。さらに脳虚血時のEPO受容体mRNA発現変化をin situ hybridization法にて検討した。その結果、中大脳動脈皮質枝永久閉塞後にEPOを脳室内注入することにより、脳虚血2、4週後の水迷路試験でSH-SPラットの場所学習障害が軽減し、大脳皮質梗塞巣と視床二次変性も改善した。また、in situ hybridization法にて、脳虚血24時間後に大脳皮質梗塞巣周辺部(ischemic penumbra)でのEPO受容体mRNA発現増強が確認された。従って脳虚血時に大脳皮質梗塞巣周辺部でEPO受容体発現が誘導されることにより、EPOと受容体との結合が促進され、EPOが神経細胞保護効果を発揮するものと考えられた。さらに今年度の研究において、我々はEPOが細胞死抑制遺伝子産物Bcl-x_Lの発現上昇を介して、神経細胞保護作用を発揮することを見出した。 一方、我々はその他のコロニー刺激因子の1つであるインターロイキン(IL-3)も、Bcl-x_L発現促進を介して強力に神経細胞を保護することをすでに公表している(J.Exp.Med.,188,635-649,1998)。そこで、我々はBcl-x_Lが神経細胞死を抑止するためのkey moleculeであると推測し、EPOやIL-3よりも強力に神経細胞のBcl-x_L発現を促進するのみならず、静脈内投与も可能な非ペプチド性神経細胞保護因子を探索した。その結果、我々は急性期脳梗塞ならびに脊髄損傷治療に有用な静脈内投与用Bcl-x_L発現促進物質を見出すに至った。
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