研究概要 |
本年度は脳幹-脊髄系の中でも歩行の駆動及び制御信号を脊髄に下行性伝達する網様体脊髄路とその主投射領域(前角VII-VIII層)に分布する脊髄交連細胞の関係に着目し、これらの歩行リズム発現・制御における機能的役割の解明を目的としてシステム的解析を進めた。このため無動化除脳ネコ歩行標本において軸索内記録法と軸索内トレーサー(neurobiotin,NB)注入法を併用し、網様体脊髄路入力を受ける腰髄介在細胞から、歩行リズム発現時の介在細胞の作動様式とその構築様式について解析した。この結果、橋・延髄網様体の刺激に順行性応答発射をする記録細胞の多く(約80%)は歩行リズム周期に対応してリズム発射を示した。これらすべての細胞は各リズム周期内で一相性発射を示したが、その発射位相は記録側の後肢伸筋活動と同位相または反対位相のものが多く、それらはほぼ同数であった。またNB標識された介在細胞のすべては、細胞体が腰髄前角VI-VIII層に分布する交連細胞であり、とくにVIII層内のものが過半数を占めた。VIII層交連細胞の多くでは細胞体近傍の髄節で交叉性軸索から軸索側枝が高頻度に分枝していたが、VI-VII層交連細胞では軸索側枝の分枝数は極めて少なかった。VIII層交連細胞の軸索投射様式には、運動ニューロン層に投射するものと介在細胞層のみに投射するものの2種類が認められた。以上より、VIII層交連細胞はリズム発射及び軸索投射の特徴から左右後肢歩行リズムの協調的発現に関わる神経回路の基本構成要素であると考えられた。さらに網様体脊髄路が脊髄内に多髄節性に分散配置される脊髄内リズム生成回路を統合制御することを考慮すると、網様体-交連細胞神経機構は肢-肢・肢-体幹の定型的かつ協調的歩行リズム形成の基礎的神経機構を構成すると考えられた。
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