脳内目的領域の神経活動を体外から可逆的に制御し、そこでの情報処理内容を詳細に理解するため、これまでに光酸化法及び近赤外域低出力レーザー法を考案し、確立してきた。光酸化法は、神経組織への光増感色素の投与後に体外から光照射を行って目的組織を急速に酸化する方法で、これまでに本法を用いて脳スライス標本及び麻酔下あるいは無麻酔下の動物の興奮性神経伝達(主にシナプス伝達)を抑制することに成功してきた。また低出力レーザー法では、光増感色素の投与なしに脳スライス標本及び麻酔下の動物脳内神経活動を抑制することに成功している。本研究プロジェクトでは、光酸化法における、より正確な神経伝達制御のためのさらなる方法の開発と、低出力レーザー法においてはレーザー照射が神経伝達を抑制する細胞内メカニズムを解明することをその目的とした。 光酸化による神経伝達抑制効果を非侵襲的、かつ、リアルタイムに評価するため、酸化組織からの可視域極微弱発光を光電子増倍管を用いて検出した。これは酸化組織がその酸化程度に相関して自然発光を引き起こす性質を利用したものであり、現在では光酸化法に本法を組み合わせて、脳内神経伝達を正確に制御できるようになった。 また、低出力レーザー法による神経活動抑制メカニズムを調べるため、ラット海馬培養神経細胞にバッチクランプ法を応用し、静止膜電位及び膜抵抗へのレーザー光の影響を観た。レーザー照射を開始して数分すると、10-15mVの過分極応答が観察され、同時に膜抵抗が減少した。さらに生化学実験により、同レーザー照射が細胞内ATP濃度を上昇させることを確認した。以上より、レーザー照射は細胞内ATP濃度の上昇を介してATP感受性カリウムイオンチャネルにはたらきかけ、カリウムイオン透過性を亢進させた結果、神経伝達を抑制している可能性が示唆された。
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