大脳基底核の入力部である線条体における記憶の様式については、これまでラット線条体スライスを用いた実験でCalabresiらにより、線条体では大脳皮質ム線条体投射路のテタヌス刺激によって伝達効率の「長期抑圧」が生じることが報告されてきた。しかし、In vivoでは逆に「長期増強」が生じること、また、スライス実験でもテタヌスに同期してドーパミンを投与すると「長期増強」に転換するという報告があり、まだ再検討の余地が残されている。一方、我々は独自にサルを用いた研究で、学習過程において線条体コリナージックニューロンがドーパミン依存下に条件付け抑制応答を獲得すること、その機序として我々は条件付け学習によってドーパミン依存性にコリナージックニューロンに抑制性の入力が生じるようになることを明らかにしてきた。今回、我々は線条体の可塑性の様式の再検討と我々の線条体コリナージックニューロンを舞台としたシナプス可塑性の生理学的メカニズムの解明を目的として、マウスを用いたスライス電気生理実験で、線条体を構成する主要な4種類のニューロンの可塑性に対する関与について調べた。 その結果、線条体投射ニューロンではやはり「長期抑圧」を生じることが多いが、思い掛けないことにpicrotoxinやbicuculline(GABAA受容体のアンタゴニスト)の投与後、テタヌス刺激をしてみると「長期増強」を生じることがあること、さらに、線条体のインターニューロンのひとつであるGABA性のParvalbumin細胞(FS cell)では「長期増強」を生じること(7例中7例)、また、コリナージックニューロンでは、テタヌス刺激後誘発されるEPSPに変化はないが、刺激前には見られなかったIPSPが刺激に引き続いて出現するようになることがあることが明かになった。
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