研究概要 |
複数の物体が視野中にある場合に,単一の手掛かり(cue)が空間的にどのような相互作用をし,統合されるのかを,心理物理実験によって検討する.ここでは陰影を取り上げ,複数の凹凸が視野中にある場合に,陰影からの3次元知覚において,陰影の空間分布がどのような相互作用をし,統合されるのかを,心理物理実験によって検討する.このために,任意の凹凸をもった平面の陰影を高精度で呈示できる,心理物理実験用のコンピュータープログラムを作成した.このプログラムは,平面上の任意の範囲ごとに独立な光源を設定できるものとした.このプログラムを,H11年度に購入した刺激呈示装置(グラフィックワークステーション)上で実行し,心理実験を行った. まず,陰影の空間分布特性を厳密に制御した視覚刺激を生成するために,一連の刺激を,ホワイトノイズを基にして生成した.ホワイトノイズを密に重複した空間ウィンドウごとにフーリエ変換する.そのスペクトルを特定のフィルタによって濾過した後,逆フーリエ変換する.この画像の濃淡値を平面上の高さ(凹凸)として,特定の光源から照明した場合の陰影像を計算する.このようにして,厳密に特性を制御した刺激を作製した.この刺激を被験者に呈示し,刺激特性と3次元知覚の関係を検討した. 実験の結果,3次元知覚は光源条件に大きく依存することが判った.適当な光源条件を決定した後,平面を複数範囲に分割して,それぞれの範囲ごとに独立した光源を設定し,その光源方向を変化させた.分割個数が増えるにつれ,3次元知覚が成立しなくなり,刺激が2次元的なテクスチャとして知覚されるようになった.しかし,幾つかの部分に同一の光源方向を指示すると,これらの部分については3次元知覚が成立した.これらの結果から,陰影からの3次元知覚では,空間位相が重要な制約条件を与えていること,位相が同一あれば空間的距離には依存しないこと,が示された.
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