研究課題
LEPの実験データ解析に必要なシミュレーション・プログラムの開発では、新粒子探索において最も重要なバックグラウンドとなる、最終状態に4つのフェルミオンが生成される過程を重点的に研究し、その計算精度を上げた。開発されたプログラムは、OPAL実験の解析で実際に使用され、新粒子探索だけでなく、ほぼ全ての物理過程の研究で利用される標準のシミュレーション・プログラムとなっている。また世界的な素粒子理論の進展を鑑み、新しい枠組での理論を構築・検討した。例えば余剰空間次元の物理など最近注目される理論に対し、当研究領域はすばやく対応し、OPALがLEPで始めての結果を出すことに成功している。理論的研究に関しては次世代加速器実験、特にわが国の高エネルギー物理の次期基幹計画である電子・陽電子リニアコライダーJLCで探索可能な物理を精力的に研究している。得られた物理成果は非常に多岐にわたるが、主な結果は次の通り。1.シングレット荷電ヒッグスボソンを加えたヒッグス模型では軽いヒッグスボソンの2光子崩壊幅が標準模型から大きくずれ、コライダーでのヒッグスボソン探索方針の変更が必要になることが分かった。2.有効ポテンシャルにCP非保存項が現れる超対称性標準模型では中性ヒッグスボソンの崩壊比がCP対称性を持つ模型の予言と大きく異り、コライダーでの探索を左右する可能性があることが分かった。3.ミューオン異状磁気能率を含む精密実験の最新の測定結果を検討し、新しい物理、特に超対称標準模型に対する制限を求めた。4.宇宙のダークマター候補であるニュートラリーノについて宇宙論的観点から研究を行い、宇宙初期の高温時に生成されると「冷たい」ダークマターになるが、低温時に非平衡過程によって生成されると、「温かい」ダークマターとなって宇宙の局所的構造を破壊する可能性があることが分かった。5.電子陽電子衝突によるタウ対生成とタウ崩壊の観測により、レプトンフレーバーの非保存相互作用のパリティー、CP変換性を定める方法を提案した。
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