研究概要 |
非平衡状態を経由した光誘起相転移の初期過程は,「ドミノ倒し」で一般的に記述される。昨年度は,エネルギー散逸が速い場合の光誘起ドミノ倒しダイナミクスを1次元局在電子-格子モデルを用いて調べ,サイト間の相互作用の性質と相転移ダイナミクスとの関連を議論した。断熱近似下と透熱近似下で励起光が弱い極限(単一サイト励起極限)を調べ,定性的に異なる2種のドミノ倒し現象を発見した。本年度は,Sugakov氏(ウクライナ原子力研究所)との共同研究で,(1)複数サイト励起の場合,(2)エネルギー散逸が遅い場合,の光誘起ドミノ倒しダイナミクスを精査した。(1)では,単一サイト励起ではドミノ倒しが生じないパラメータ領域でも,複数サイト間距離や光励起時間差に依存して,ドミノ倒しが生じうることがある。この数値計算をもとに,臨界核サイズの光制御の可能性を議論した。(2)では,電子励起状態での格子緩和エネルギーを,ドミノ倒しに有効利用できる場合がある。この場合,ドミノの「同期運動」が生じ,断熱近似下であっても自然放出寿命より早い時間内にドミノ倒しが進行する。モンテカルロ法による大規模な数値計算は,酒井治氏(東京都立大学理学部)と連携して進めている。他方,非平衡状態での相転移を議論する理論的枠組みとして,励起子のような有限寿命を伴う粒子の相分離ダイナミクスを追跡する理論を構築した。昨年度のGinzburg-Landau現象論を越えるために,より微視的な格子気体モデルを基にした理論を完成した。そこでは,粒子間相互作用の情報があらわに取り込まれている。空間相関情報を2点相関関数のフーリエ変換である動的構造因子に取り込み,系の時間空間発展を,動的構造因子と1点分布関数との連立時間発展方程式で記述する理論である。粒子の寿命と平均クラスターサイズとの間のべき乗則を発見し,その物理的意味を考察している。
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