研究概要 |
1.光誘起相転移は,電子の励起状態が関与する協力現象である。絶縁体の電子励起状態を光制御する観点から多励起子系を理論的に理解するために,ボゾン描像の立場から励起子を取り扱う研究を行った。本年度の研究では,2個の励起子が存在する部分空間についての新しいボゾン化法を提案した。さらに,この励起子ボゾン化法を用いて非線形光学応答を解析し,多励起子系の量子状態への拡張を議論した。 2.非平衡状態での相転移を議論するモデルとして,励起子のような寿命を伴う粒子の相分離(スピノーダル分解)ダイナミクスを追跡する理論を構築した。本理論では,平均場描像では落とされている空間相関情報を2点相関関数のフーリエ変換である動的構造因子に取り込む。寿命による粒子消滅と光照射による粒子生成の効果とを取り入れる点が新しい試みである。本研究では,Ginzburg-Landau-Wilson流古典現象論を基にした取り扱いと,「格子気体モデル」を基にしたより一般化された取り扱いの双方を行って理論的枠組みを完成し,数値計算によりダイナミクスを追跡した。 3.非平衡相転移現象や光誘起相転移過程において,物質の量子力学的性質が果たしている役割はまだほとんど明らかになっていない。特に,相転移と量子揺らぎとの関わりは,「量子相転移」なるキーワードの下で近年活発に研究が始まっている。具体的に最近,量子常誘電体に光照射をした系で誘電率が異常増大する現象が観測されている。この現象を,光遷移による量子揺らぎの抑圧によって常誘電体→強誘電体転移が制御される効果と捉えることにより,「光誘起電気双極子」と常誘電体固有の「フォノン双極子」とが結合している系を「拡張された横磁場イジング模型」としてモデル化し,量子常誘電体での光誘起協力現象の現象論的考察をすすめた。
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