本年度は、Penicillium funiculosum由来の菌体外P(3HB)分解酵素による基質分解および吸着機構を詳しく調べた。さらに、本分解酵素遺伝子のクローニングを検討した。 5種類のポリマーグラニュールを基質として用い、酵素吸着実験を行った。その結果、本分解酵素は用いたすべての基質表面に吸着したことから、本分解酵素とこれら基質の間には、バクテリアのSBDとポリエステルのような特異的な相互作用が存在しないということが示唆された。P. stutzeriとP. funiculosum由来の失活酵素を吸着させたP(3HB)微粒子を基質として用い、P. funiculosum P(3HB)分解酵素の酵素加水分解反応を行った。その結果、P(3HB)をP. stutzeri由来の失活酵素で処理したときの活性は、未処理のP(3HB)を用いたときの2%に減少し、P. funiculosum由来の失活酵素で処理した場合は48%の活性を保持していた。これはP. stutzeri由来の分解酵素と比べ、P. funiculosum由来の分解酵素のP(3HB)への吸着は他の酵素分子によって交換されやすいということを意味している。これらの結果は、P. funiculosum由来の分解酵素とP(3HB)表面の間には弱い相互作用しか働いていないということを示唆している。一方、本酵素のN末端配列は、エドマン分解によりTALPAFNVNPNSVSVSGLSSG GYMAAQLGVと決定された。この配列に基づき縮退DNAプライマー(プライマー1、プライマー2)を設計し、ゲノムDNAを鋳型としてPCR法により、N末端をコードするDNA断片を取得した。本断片のシーケンシング後、この配列に基づきプライマー(プライマー3、プライマー4)を作成し、N末端をコードするDNA断片を得た。この断片をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、3.5kbpのEcoRI消化断片が本プローブと特異的に結合することが明らかとなった。さらに、N末端配列に基づきプライマー5を設計し、これを用いてmRNAを鋳型として、3'RACE法によりcDNAの全長を取得した。cDNA配列解析より、酵素遺伝子をコードしているゲノムDNA領域は、3つのイントロン配列を含むことが明らかとなった。また、本酵素は、バクテリアP(3HB)分解酵素に見られるSBDに相当する領域を欠損していることも明らかとなった。この結果は、本酵素が、バクテリアP(3HB)分解酵素と比較して、P(3HB)に対して非常に弱くかつ低い基質結合特異性しか有していないことを支持している。
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