廃棄プラスチックの処理方法が社会問題化している現在、従来の汎用プラスチックの代替品として生分解性プラスチックが注目を集めている。本研究では、有望な生分解性プラスチックの一つである微生物産共重合ポリエステル(PHA)の実用化の基礎となるデータの集積を図る。微生物はPHA合成の際、異なる化学組成を持つ分子鎖を同時に体内に蓄積する事がわかっている。つまり、微生物から単離したPHAは特異的な化学組成分布を持つ。PHAでは化学組成分布が、結晶化度や微結晶サイズなど高次構造に影響を与え、さらにこの結果として物性に影響を与えることが知られている。本年度は化学組成分布の物性に対する影響を系統的にまとめることを目的とする。 この目的のために、化学組成分布に二分散性のあるPHA、つまり異なる化学組成を持つPHAの混合物の構造情報集積を主眼に研究を進めた。このとき、熱履歴が構造、物性に影響を与える可能性も考慮し、種々の熱履歴を与えた試料を調製した。これらに対し、核磁気共鳴スペクトル法、示差操作熱量計等を用いて高次構造を解析した。この結果、成分PHAの化学組成差が大きくなるにつれて、(1)共結晶化、(2)一方の成分の優先的な結晶化、(3)結晶相分離の順に結晶相が変化することがわかった。また、熱処理温度を上昇させた場合も同じ順で変化した。このとき、(1)から(2)への変化は連続的であった。すなわち、結晶相中の組成は、二成分間の化学組成差が非常に小さいときには試料全体の平均組成と等しいが、組成差の増加と共に一方の成分の含量が増加する。結晶相の変化は、当然、融点等熱的性質にも相応の変化をもたらす。すなわち、化学組成分布は材料の物性設計に重要な要素であることがわかった。
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