微生物由来の脂肪族ポリエステル、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、自然界で完全に閉じたサイクルを持つ環境低負荷型プラスチックである。PHAのような結晶性の共重合体の場合、一次構造(化学構造、化学組成)と化学組成分布、それに高次構造(結晶化度や微結晶サイズ、形態など)が複雑に絡み合って物性を決定している。本研究課題の目的は構造の階層性に着眼して分析を行い、PHAの構造と物性の相関を明らかにすることにある。本年度はHBと3-ヒドロキシペンタン酸の共重合体(PHB-HV)の結晶構造の検討、及び、PHB/PHB-HV混合物における動的構造形成過程の解析に重点をおいた。PHB-HVの構造については、様々な構造パラメータ及び物性の測定により、HV組成10%構造付近で何らかの結晶構造転移が起きることを明らかにした。この転移を説明するためのモデルとして、HV組成10%以下のPHB-HV結晶構造のモデルとしてラメラ表面付近にのみHVユニットが存在するサンドイッチラメラを提案した。PHB/PHB-HV混合物における動的構造形成過程については、距離ではμmオーダー、時問では秒オーダーでの分析を顕微FT-IRスペクトロメータを用いて行い、PHB-HVのHV組成の違いにより結晶化挙動が異なることを明らかにした。HV組成が15%程度の場合にはPHBが先に結晶化し、PHB-HVの結品化がそれに続く。このとき、PHBはラメラ間、または、フィブリル間に本来結晶化速度の遅いPHB-HVをトラップする形で結晶化し、その後PHB-HVが微結晶を形成すると考えられる。HV組成が10%以下の場合には、PHB、PHB-HV両成分の結晶化はほぼ同時に進行した。このときの速度はPHB単体と同等であったので、PHBが結晶化に際してPHB-HVを巻き込みながらほぼ完全な共結晶相を形成したと考えられる。
|