微生物由来の脂肪族ポリエステル、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、自然界で完全に閉じたサイクルを持つ環境低負荷型プラスチックである。PHAのような結晶性の共重合体の場合、一次構造(化学構造、化学組成)と化学組成分布、それに高次構造(結晶化度や微結晶サイズ、形態など)が複雑に絡み合って物性を決定している。本研究課題の目的は構造の階層性に着眼して分析を行い、PHAの構造と物性の相関を明らかにすることにある。 本年度は、顕微FTIRを用いたPHB/PHB-HVブレンドの結晶化過程に関する研究を行った。これまでにこのブレンドの平衡結晶化後の静的構造はX線回折法やDSCなどを用いて研究されているが、その形成の過程をリアルタイムで観測した例はほとんどない。高分子鎖の結晶化が速度論によって支配されている以上、構造制御のためには結晶化過程の解析が不可欠である。 ブレンド成分の一方に重水素化試料を用いた場合、FTIRスペクトルのC=0伸縮振動バンドとC-D伸縮振動バンドの経時変化より、ブレンド全体と重水素化成分の結晶化挙動を、それぞれ観測することができた。この挙動をブレンド前の成分の挙動と比較することにより次のようなことが明らかとなった。結晶化速度が近い成分間のブレンド系では、両成分がほぼ等しい割合で球晶成長面に取り込まれてラメラ晶が形成され、共結晶化が起こっていると考えられる。一方、結晶化速度が比較的離れている成分間のブレンド系では、結晶化速度の速い成分が先にラメラ晶を形成し、結晶化速度の遅い成分はその間にトラップされ、遅れて微小結晶相を形成すると考えられる。2つの結晶化機構の境界は速度の比で5程度と予想される。
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