微生物産生脂肪族ポリエステル及びその分解酵素の結晶・表面構造解析

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11217216
• 研究機関: 理化学研究所
• 研究代表者: 岩田 忠久 理化学研究所, 高分子化学研究室, 副主任研究員 (30281661)
• 研究分担者: 久野 玉雄 理化学研究所, 理論構造生物学研究室, 研究員 (20312267) ; 平石 知裕 理化学研究所, 高分子化学研究室, 研究員 (20321804)
• キーワード: 生分解性脂肪族ポリエステル / 単結晶 / フィルム / 結晶構造 / 表面構造 / 加水分解酵素 / 結晶化 / 高次構造解析

研究概要

本年度は、化学合成系生分解性脂肪族ポリエステル、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリ(β-プロピオラクトン)(PPL)及びポリ(δ-バレロラクトン)(PVL)の単結晶を等温結晶化法により生成し、その高次構造と酵素分解性について、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、X線回折、コンピュータによるモデル計算を用いて詳細に解析した。酵素分解実験には、Alcaligenes faecalis T1とPseudomonas stutzeri YM1006由来の2種類のPHB分解酵素をそれぞれ精製して用いた。単結晶への酵素の吸着は、Immuno-gold Labelling法を用いて行った。分解前後の単結晶の分子量は、GPC用いたポリスチレン換算により算出した。
PESの単結晶は、結晶化温度の違いによって3つの形態(菱形積層構造、菱形スパイラル構造、樹状構造)をとることがわかった。2種類のPHB分解酵素はPES単結晶の結晶表面にそれぞれ一様に吸着したが、分解はP. stutzeri YM1006のみで生じ、単結晶は結晶の周囲から分子鎖をときほぐす様に分解された。酵素分解後の単結晶の厚さ及び分子量が、いずれも酵素分解前と同じであったことから、酵素分解は単結晶表面の分子鎖の折れ曲がり部分から生じるのではなく、結晶側面から優先的に生じるものと考えられる。さらに、酵素の活性部位における基質認識サイト様式を考慮すると、エステル結合間の距離も分解に重要な寄与をおこぼしているものと推察される。
PPLとPVLはともにall-transコンフォメーションを有する斜方晶系の結晶構造をとり、ab面における分子鎖のセッティング角は、a軸に対してそれぞれ±51.5°と±58°が最適であることがわかった。また、単結晶表面における分子鎖の折れ曲がり構造は、ジメチレン基が折れ曲がり部分の頂点に来ている方が安定であることわかった。

研究成果

• [文献書誌] T. Iwata, Y. Doi, K. Isono, Y. Yoshida: "Morphology and enzymatic degradation of solution-grown single crystals of poly(ethylene succinate)"Macromolecules. 34(21). 7343-7348 (2001)
• [文献書誌] T. Iwata, Y. Doi: "Alkaline-hydrolysis of poly(L-lactic acid) solution-grown single crystals"Sen-i Gakkaishi. 57(6). 172-177 (2001)
• [文献書誌] T. Murase, T. Iwata, Y. Doi: "Direct observation of enzymatic degradation behaviour of poly[(R)-3-hydroxybutyrate] lamellar single crystals by atomic force microscopy"Macromolecules. 34(17). 5848-5853 (2001)
• [文献書誌] T. Fujiwara, M. Miyamoto, Y. Kimura, T. Iwata, Y. Doi: "Self-organization of diblock and triblock copolymers of poly(L-lactide) and poly(oxyethylene) into nano-structured bands and their network system"Macromolecules. 34(12). 4043-4050 (2001)
• [文献書誌] T. Murase, T. Iwata, Y. Doi: "Atomic force microscopy investigation of poly([R]-3-hydroxybutyrate) lamellar single crystals : Relationship between molecular weight and enzymatic degradation behaviour"Macromolecular Bioscience. 1(7). 275-281 (2001)
• [文献書誌] Y. Furuhashi, P. Sikorski, E. Atkins, T. Iwata, Y. Doi: "Structure and morphology of the aliphatic polyester poly(δ-valerolactone) in solution-grown chain-folded lamellar crystals"Journal of Polymer Science : Part B : Polymer Physics. 39(21). 2622-2634 (2001)