研究概要 |
成層圏オゾン変動とその気候に及ぼす影響を見ることを目的とする。そのことを研究するためには、いろいろの方法があるが、我々の班では主に大気大循環モデル(GCM)をもちいて研究をおこなっている。 具体的には、1:複雑な化学反応系をモデルに組み込み、成層圏オゾン変動を調べること、2:高分解能のモデルによる力学、輸送過程と化学過程の関係性を調べること、等を行い、問題を考察した。 南極域成層圏オゾンホールが最近は温度のより高い北極域にも起こりつつあり、それのメカニズム解明および将来予測が必要になってきたことにより、成層圏オゾン等化学物質の変動も含めてモデル研究の視野に入ってきている。化学モデルに硫酸エアロゾルが導入された。つぎに、オゾンホールに重要な極成層圏雲をモデルに導入することで、オゾンホールの実験をおこない、観測と比較した。また、オゾンホールの将来予測実験をおこなった。我々のモデルではこのままのフロン規制が続くと仮定して、2040年ころにオゾンホールがなくなるであろう結果を示している。 CCSR/NIES ナッジング CTMを用いて北極渦崩壊後の夏の下部成層圏におけるオゾン濃度の変動を計算し、ILASによるオゾンデータと比較してよい一致を得た。また、そのオゾン変動に対するプラネタリースケールの波動とNOxケミストリーの相互作用の影響を明らかにした。その他の研究として、オゾンQBOのピナツボ噴火の影響実験、太陽11年変動にともなうオゾン変動などを具体的研究としておこなった。 高分解能のGCMによる重力波の生成問題、重力波による物質輸送混合や成層圏変動の役割を調べている。梅雨前線の実験をおこない、梅雨前線を再現した。気候モデルで梅雨前線を再現したことは世界的に始めてうまくいったと思われる。 中緯度大型大気レーダーの観測データとの比較により現実的な重力波が表現されていると確認できた高分解能全球水惑星モデルによる時系列データ(Sato et al.,1999)を用いて、観測、数値モデル研究とも殆どなされていない極域成層圏の重力波力学特性の解析を行った。極夜ジェットの曲率の大きなところから重力波が発生している様子が明らかとなった(Sato,2000)。局所的ロスビー数が大きいことから,地衡風調節過程による発生と考えられた.これは,南極昭和基地の定常ラジオゾンデデータ解析により明らかになった成層圏で下向き重力波の割合が大きくなる事実と調和的である(Yoshiki and Sato,2000)。また、対流圏上部の地衡風調節過程により発生した重力波に伴う温度擾乱により、局所的に低温域ができ、極成層圏雲を生成している事実も南極昭和基地マイクロパルスライダーと定常ラジオゾンデ観測データの解析により明らかとなった(Shibata et al.,2003)。
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