研究概要 |
生体分子配列系でのエネルギー移動過程を、海産緑藻ミルでのカロテノイド-クロロフィル系について解析した。ケトカルボニル基を持ち、エネルギー移動効率の高い特異なカロテノイド、シフォナキサンチン、の溶液系での物性を精査し対照とした。また、カロテノイドの物性評価のために、βカロテン、ケトカルボニル基を含むモデル化合物として、βアポカロテナールについて、その励起緩和過程をフェムト秒時間分解蛍光アップコンバージョン法によって調べた。S_2状態の過剰な振動エネルギーを持つ振動状態に励起されたβカロテンでは、約60フェムト秒の分子内振動エネルギーの再配置(IVR)過程が明瞭に観察され、その後に振動緩和(VR)が起こった。一方、βアポカロテナールについてはVRのみが観測され、IVR過程は観測されなかったので、後者は時間分解能(30フェムト秒)以下の速い緩和であることが判明した(J.Phys.Chem.,印刷中)。シフォナキサンチンでは、βアポカロテナールと同じ緩和過程が観測された。ケトカルボニル基が存在するために、電子状態として(n,π)遷移を考慮し、そのエネルギー準位を調べることが重要であるので現在解析を進めている。一方、色素-タンパク質複合体中でのエネルギー移動を蛍光の偏光解消法によって調べてみると、励起直後0.4であった偏光度が1ピコ秒後には0.2付近まで低下していることが判明した。この値は色素-タンパク質中では複数存在するカロテノイド分子の間でエネルギー移動が起こることを示唆するもので、従来はまったく考えられることのなかった過程であり、今後の解析が重要な意味を持つことを示している。
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