研究概要 |
λ-(BEDT-TSF)_2FeCl_4のマイクロ波伝導率測定を、これまで16GHzと45GHzに対して行ってきた。16GHzはすべてゼロ磁場下であるが、高周波電場E_<ac>をa^*, b^*, c軸方向に、そして、高周波磁場H_<ac>をa^*, b^*軸方向にかけた場合について実験している。E_<ac>//cのとき、半値幅が約50KからT_<MI>の範囲で、増大する異常が観測された。これは、マイクロ波損失の増加を表しており、伝導率が著しく低下することを意味する。しかし、この温度域の直流電気抵抗は、金属的に減少するだけである。半値幅と共鳴周波数の変化から、複素伝導率(σ^*=σ_1+iσ_2)、複素誘電率(ε^*=ε_1+iε_2)が計算できる。σ_1と直流伝導率σ_<dc>の温度変化を図1に示す。試料依存性も多少あるが、T_<MI>〜70Kの温度域で、σ_1が約2桁低下している。45GHzにおける測定でも、σ_1の低下は再現する。マイクロ波周波数帯でみると、この系の金属状態が極めて異常であることを示している。誘電率ε_1(σ_2に比例する)の解析は、金属シフトγ/n(γ:充填係数、n:分極定数)の取り方に敏感である。約70K以上では、異常な金属状態ではなく、σ_1とσ_<dc>の温度変化がほぼ一致するので、高温の結果を基に金属シフトを決定した。このとき、低温域の誘電率は3000-4000の正の値を取る。絶対値は、金属シフトに敏感であることを考慮すると、1000程度の誤差を含んでいる。伝導に異常が生じている温度域で、誘電異常も生じているのである。同じ結晶構造をとり、アニオンにdスピンを持たないGaCl4塩では、誘電性はもちろん、伝導性にも異常は生じない。したがって、FeCl_4塩のこの異常に、π-d相互作用が何らかの寄与をしていると考えられる。
|