本研究の目的は、有機π伝導電子系にそれとは異質な電子系を複合させて、有機分子だけでは得にくい複合物性の発現が期待される物質の、設計と開発をおこなうことである。本研究の開始直前に、研究代表者は、特定領域研究(A)「集積型金属錯体」の公募研究の結果として、安定な含希土類有機伝導体の結晶を世界で初めて得た。そこで、希土類錯体-有機分子の新規複合系を引き続いて開発するとともに、得られた新物質の物理的性質の解明を主眼として研究を進めた。最初に得た含希土類有機伝導体安定結晶である(BO)_x[Ln(NCS)_6]は、極低温1Kまで金属伝導を示す。X線回折実験からは、有機πドナー分子BOの配列がβ"構造と呼ばれる型であることと、希土類錯イオンの構造は不明であるが、ドナー分子配列に対して不整合超周期配列をとっていることがわかった。磁化率測定と元素分析の結果とあわせて、組成式のxは約8と見積もられた。平成11年度に新しく開発した(DIEDO)_6[Ln(NCS)_6]は、約70K以上で半金属的伝導性を示し、低温では絶縁化する。DIEDO分子は末端に2つのヨウ素原子をもち、これが希土類錯体の配位子NCS^-と結合して相互作用することが予想されたが、実際にX線結晶構造解析からヨウ素-配位子間に短い原子間距離が見出され、予想が裏付けられた。しかし、磁性と伝導性の測定からは希土類4f電子と有機π伝導電子の相互作用は無視できるほど弱いと考えられた。この点は最初のBO塩でも同様である。一方、DIEDO塩のπ電子の磁性は、絶縁化前後で変化せず、伝導電子系がやや特殊な状態にあることが示唆された。以上の希土類-有機複合系の研究と並行して、接合・界面を利用した複合系作成のための真空蒸着装置の仕様を決め、備品として導入し基本性能を試験した。
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