研究概要 |
研究代表者が磁性と伝導が絡んだ磁性有機伝導体の開発を目的に研究を始めた頃は磁気秩序と有機超伝導は両立しがたいものと思われていた。事実、数年以前に英国のP.Dayらにより発見された初めての常磁性超伝導体ではアニオンの持つ局在モーメントとπ伝導電子との間には相互作用が無く、二つの系は互いに独立である。申請者等がBETSと略称されるπドナ-分子と代表的な磁性アニオンであるハロゲン化鉄(III)イオンFeX_4(X=Cl,Br)とから構成される有機伝導体、λ-およびκ-(BETS)_2FeX_4(X=Cl,Br)、あるいはそれらの類似混合ハロゲン系、λ-,κ-(BETS)_2FeBr_yCl_<4-y>FeサイトにGaを取り込んだ混晶系、λ-(BETS)_2Fe_xGa_<1-x>Br_yCl_<4-y>を合成しその物理的性質を吟味し始めたのは8年ほど以前のことであるが、これらの系から、前例のない超伝導-絶縁体転移を示す伝導体など、種々の新たな磁性有機伝導体が得られるようになったのは最近の事である。申請代表者らがメタ磁性金属や、この分野での物質開拓の最終目標の一つであった、磁気秩序と超伝導が共存する初めての有機超伝導体(ここでは反強磁性有機超伝導体、κ-(BETS)_2FeBr_4)を発見することが出来たのは昨年度である。また、電気抵抗が2.4Kの反強磁性転移温度で階段的に減少する事より、伝導電子と局在磁気モーメントの間にπ-d相互作用が存在することを示す直接の証拠も、これに伴って初めて得られた。本年度は第二番目の反強磁性有機超伝導体である、κ-(BETS)_2FeCl_4とあわせ、これらの系の詳細な研究を進めた。また高圧下(3 kbar)では超伝導を示すが、常圧下では8Kでπ-dカップル反強磁性絶縁相に転移し、しかも10T程度の磁場で強制強磁性金属状態となることが以前より判っていたλ-(BETS)_2FeCl_4では17T以上で磁場誘起超伝導現象が発見された。この現象では電子構造の二次元性が本質的と思われ、今後その解明への研究が注目を集めるものと思われる。また、金属-超伝導-絶縁体転移を示す結晶では、非常に小さな磁場で絶縁状態から金属状態を飛び越えて直接、超伝導状態へと転移をする異常な転移の存在も判明しつつある。今後、磁性有機伝導体の物性研究が発展していくものと思われる。
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