研究概要 |
本研究課題では,分子性物質における複合物性へのアプローチとしてスピン自由度に注目している.具体的には,「伝導電子」スピンと「それと対称性を異にした」スピンとの複合系ならびにその周辺領域を対象としている.NMRは微視的な情報を得るための強力な実験手法であり,平成11年度には広帯域フーリエ変換NMR測定システムを構築した.平成12年度は,温度および磁場といった物性条件を精密にコントロールしながらNMR測定を行うために,温度可変インサート・温度コントローラー・マグネット電源を導入した.これにより,特に相転移近傍での精度良い測定が可能となった. 前年度から研究を開始しているEDT-TTF系について,その代表的な塩である1/4バンド占有系(EDT-TTF)_2AuBr_2に関して詳細な物性測定を行いJ.Phys.Soc.Jpn.誌に報告した.これまで未解決だった擬一元系SDW相のsub-phaseの起源について,反強磁性磁気構造の再構築であるという可能性を報告した.さらに選択的同位体置換した単結晶試料についての詳細な測定を行い,これを支持する報告を行った(Mol.Cryst.Liq.Cryst誌:印刷中). 上記の系に加え今年度は,1)擬一次元二本足梯子系(BDTFP)_2X系,2)複合スピン系(CHTM-TTP)_2TCNQの低温電子相についても研究を行っている.1)は,温度変化ならびにアニオンの微妙な違いにより,spin-singlet・電荷分離・反強磁性といった電子相が競合することがわかった(Mol.Cryst.Liq.Cryst誌:投稿中).2)に関しては,新規な局在-遍歴複合スピン系であることを見いだしている.この系は大きな磁化率のトビを伴う多段階の相転移を示し,複合スピン系の協力現象として興味深く,現在NMR測定を行っている.
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