研究概要 |
本研究では,マグネシウムおよびその合金に対して電子・原子レベルからマクロまでのマルチスケール制御を行い,多用な特性を同時に有するトレードオフ・バランシングされた高性能マグネシウム合金創製の可能性を検討する.本研究の目的は,(1)第一原理計算による変形挙動の電子・原子レベルでの解析と制御,(2)衝撃特性に影響する因子の解明と衝撃特性に優れた合金の創製プロセスの構築,(3)拡散接合および摩擦攪拌溶接の確立,(4)量産のための市販圧延板のプレス成形条件確立と成形性支配因子の究明,の4つに大別できる.(1)については,マグネシウム完全結晶とMg-Li合金の格子定数,弾性率の計算において高精度の計算システム構築を確認し,マグネシウム単結晶の理想すべり変形での積層欠陥エネルギーの計算から,底面よりはるかに大きい柱面すべりの臨界せん断応力を説明し,また両者の電子論的な違いについても考察した.(2)については,Mg-Zn系合金において,強加工・拘束型押出成形プロセスにより,Zr系析出相のサブミクロン以下の微細均一分散と1μm以下の結晶粒微細化を同時達成し,さらに底面すべり方向と最大せん断すべり方向を一致させる方位制御プロセスにより250MPa以上の高強度と30%以上の大きな伸びおよび優れた衝撃特性を得た.(3)については,純マグネシウムにおいて,拡散接合で接合界面が消滅する最適条件下で母材の85%以上の高い接合強度が得られたが,摩擦攪拌溶接では空洞生成により母材の40%の引張強度しか得られなかった.(4)については,AZ31合金で対板厚比2.5の小さいポンチ肩半径の深絞りを行い,453Kで限界絞り比2.2を得,また小さい絞り比では比較的高速な成形も可能であることを確認するとともに,室温での脆性的破断が高張力下での引張曲げによることを確認し,引張曲げ試験で成形限界が予測できることを確認した.
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