研究概要 |
本研究は、金属錯体による酸素分子活性化機構の解明を目的としている。先に我々は,三脚型四座配位子を含む銅(I)錯体が,酸素分子の4電子還元によりbis(μ-oxo)二核銅(III)錯体を生成し,さらにこの二核銅(III)錯体は,酸素分圧が低いところでは,二つのオキソ基を4電子酸化して酸素-酸素結合を再生し,酸素分子として放出することを見いだしている。今年度は特に酸素分子活性化の重要なキーステップであるこの酸素-酸素結合の開裂と,さらに水の酸素分子への酸化反応で重要な酸素-酸素結合の生成に焦点を絞って研究を行った。 三脚型四座配位子であるMe_3-tpa(tirs(6-methyl-2-pyridylmethyl)amine)及びMe_2-etpy(bis(6-methyl-2-pyridylmethyl)(2-pyridylethyl)amine)を含む銅(I)錯体([CuL]^+)を用いて,酸素分子の4電子還元によるbis(μ-oxo)二核銅(III)錯体([Cu_2(μ-O)_2(L_2]^<2+>)の合成を行った。特に後者の錯体では構造解析に成功し,温度による次の平衡([Cu(L)]^++O_2【double arrow】[Cu_2(μ-O)_2(L_2)]^<2+>)の制御が可能となり。熱力学的パラメータ(ΔH=-54±1kJ mol^<-1>,ΔS=-190±3JK^<-1>mol^<-1>)の測定に成功した。その結果,これらの値は銅(I)錯体とtrans(μ-1,2-peroxo)二核銅(II)錯体あるいは(μ-η^2:η^2-peroxo)二核銅(II)錯体間の平衡の熱力学的パラメータに似ていることから,酸素-酸素結合の開裂と生成反応の自由エネルギー変化は,可逆的銅-酸素結合の自由エネルギー変化と同等であることが明らかとなった。 さらにこれらbis(μ-oxo)二核銅(III)錯体は,高い温度では配位子に組み込んだメチル基やメチレン基の水素原子を引き抜き水酸化または酸化することが明らかとなった。
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