後天的な遺伝子発現修飾機構を解明するうえで、生殖細胞系列におけるリプログラミング機構の解明は最も興味深い研究対象である。本研究では、雌生殖細胞系列において大多数のインプリント遺伝子が後成的発現制御を受け、片親性遺伝子発現を成立させることを明らかにし、卵母細胞におけるリプログラミング機能の決定的な役割を指摘した。インプリント遺伝子の発現制御が卵母細胞成長過程全般を通じて行われていることを明らかにし、これら発現調節領域のDNAメチル化と連動しており、遺伝子ごとに時期特異的に片親性発現を示すようGIされていることを明らかにした。一方、単為発生胚におけるインプリント遺伝子発現の解析は、個体発生に対するインプリント機構の支配を知る上で格好のモデルとなりえることを示した。特に、GI遺伝子の多くが卵母細胞成長過程でGIを受けるが、例外的にH19遺伝子がGIを受けないことを明らかにした。そこで、さらにH19遺伝子欠損マウスを用いてH19遺伝子が片親性発現となる単為発生胚発生を作出し、発生特性を精査した。その結果、この単為発生胚は、驚くことにさらに4日間の発生延長を認め、妊娠17.5日のにまで発生し胎仔の生産に成功した。さらなるインプリント遺伝子の人為的発現制御による単為発生胚の個体発生を目指すことにより、哺乳類における個体発生とインプリント機構との関係がより明らかになろう。また、卵子形成過程におけるGIの進行をin vitro条件下で再現するシステムを構築することに成功したことから、今後GIを探るための様々な研究への活用が期待される。
|