研究概要 |
精巣での精子形成,精巣上体での精子成熟,精子の雌性生殖器移動,および受精での諸過程における雄性生殖細胞と異種細胞間相互作用を解析して,以下の新しい研究成果を得ることができた。 1.精巣特異的ポリAポリメラーゼ(TPAP)欠損の表現型を調べたところ,精細胞が減数分裂後の半数体前期球状精細胞までは分化するが,それ以降の伸長精細胞には分化せず,結果として精子細胞は産生されなかった。特に,TPAP欠損によって1〜数サイクルの半数体球状精細胞までの分化は進行するが,サイクルの進行にともないすべての精細胞の脱落が起っていた。減数分裂後の半数体前期球状精細胞以降の精細胞とセルトリ細胞のクロストークがひとつのチェックポイントであり,それが精子形成を支配している可能性を明らかにするために,そのチェックポイントで機能する因子の同定などを試みている。 2.精子の受精能獲得前後における精子細胞膜マイクロドメイン(ラフト)の変化について調べるために,BSA存在下または非存在下の培地に精子を回収してそれぞれのラフトを解析した。また,経時的に精子を回収し,FITC-コレラトキシンBサブユニットによる染色で受精能獲得前後でのラフトの局在も検討した。マウス精巣上体精子では,受精能獲得にしたがってスフィンゴ脂質としてのラフトが精子赤道部から先体部へと徐々に移行することが明確となった。 3.ブタ精子の運動開始にともなって,PH-GPのチロシン残基のリン酸化が起こることが明らかになった。PH-GPは未熟精子ではチロシン残基がリン酸化されており,成熟にともなって脱リン酸化されることも明確となり,精子の運動調節に重要な役割を果たしている可能性が見いだされた。 4.マウス精子ラフトにTESP5,PH20,ADAM2,およびADAM3などの精子と卵の相互作用に関与する分子が存在することを証明した。精子による卵丘細胞層の通過や卵透明帯との結合の際に,ラフトが細胞間または細胞と細胞外マトリクスの相互作用の場として機能していることも明確となった。精子と卵の相互作用に関与する分子のいくつかは,ラフト複合体として機能している可能性が示唆され,受精の分子機構に新たなモデルを提示できるのではないかと考えている。
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