SDF-1/PBSFが、Bリンパ球の発生においてどの分化段階で作用しているかは明らかでなかった。一方、Bリンパ球の発生において、Bリンパ球への分化決定とより密接に関係している系列決定直後の早期の前駆細胞の生成を支持するサイトカインも明らかではなかった。この問題を明らかにするためには、系列決定直後の前駆細胞の同定が必要となる。成体の骨髄では、最も初期のBリンパ球前駆細胞の候補が報告されているが、それらの分画が発生経路上の前駆細胞か否かは明らかでない。そこで私たちは、前駆細胞が発生系列にそって経時的に出現する胎児肝に注目した。最近、胎児肝において、セルソーターにより細胞分化マーカー陰性のBまたはTリンパ球前駆細胞を濃縮する分画が同定されたのに続き、我々はこの分画より、Bリンパ球前駆細胞を分離濃縮することに成功した。この新しい分画は、Bリンパ球特異的遺伝子を発現し、発生過程においてBリンパ球マーカー陽性の前駆細胞より早期に出現し、Ig遺伝子の再構成も遅れていることから、胎児肝における最も早期のB前駆細胞分画であると考えられた。さらに、IL-7を欠損したマウス胎児肝では、この分画は正常マウスと著差なかったが、SDF-1/PBSF欠損マウスでは著減していた。また、CXCR4欠損造血幹細胞により造血を再構築された放射線キメラマウスにおいて、成体骨髄での最も早期のB前駆細胞分画の候補は、いずれも著減していた。以上より、胎児肝の系列分化直後の最も初期のB前駆細胞が同定され、胎児および成体のBリンパ球造血において、最も早期の前駆細胞の発生にSDF-1/PBSFが必須であることが明かとなった。これにより、Bリンパ球の発生において、分化決定直後の前駆細胞を支持するサイトカインがはじめて明らかとなったと共に、SDF-1/PBSFの作用機構を細胞レベル、分子レベルで解析する材料となる生理的標的細胞が同定された。
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