1.メダカ種間雑種における胚発生異常の分子基盤:ニホン/ジャワメダカ雑種胚を用い、M期促進因子(MPF)が異種複合体になるため、発生が異常になるとの仮説を検証した。まず、MPFの構成要素であるCdc2とサイクリンBのcDNAを単離し、試験管内で再構築したMPFでリン酸化される蛋白質が、雑種と野生型で異なることを明らかにした。次ぎに、同種のサイクリンBをメダカ胚に注射した場合は分裂装置や染色体の形態は正常だが、異種のサイクリンBを注射すると雑種胚と同様の異常が起こることを示し、雑種MPFが雑種胚発生異常の原因であることを確認した。また、雑種胚発生過程で、ジャワメダカ由来の染色体が選択的に脱離することを発見した。これは受精直後から生じる異常で、雑種MPFは関与しない。従って、本雑種胚の発生異常には、中期胞胚以降の雑種MPFと、それ以前に働くまだ未解明の原因の少なくとも2つの要因が関わると結論された。 2.メダカ種間雑種における生殖細胞形成異常による不妊の分子機構:ニホン/ハイナンメダカ雑種で見られる生殖細胞形成異常に関与する分子の特定を目指し、姉妹染色分体・相同染色体の結合や細胞周期調節に関わる蛋白質(SMC1α、SMC1β、SMC3、Rad21、SCP3、Mad2、Cdc20、Separin、Securin、p53)の発現を調べた。その結果、1)雑種精巣ではSMC3がレプトテン期で異常な局在を示す、2)SCP3はレプトテン期では野生種と同様の発現だが、パキテン期ではシナプトネマ構造に沿った線状の形態を示さない、3)これら以外の蛋白質は野生種と雑種で差がないことが明らかになった。以上のことより、雑種精巣では減数分裂過程においてSCP3を含まない不完全なシナプトネマ構造が形成されるために相同染色体間の対合が維持できず、精子形成不全が起こると推測した。
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