本年度はメダカ雄生殖細胞に生じたゲノム変化が、精子形成過程および初期発生過程で細胞死によってどのように排除されるかを調べた。1.突然変異率に関して放射線感受性の異なる3つのメダカ系統を使い、精原細胞におけるγ線誘発細胞死(核凝縮を指標)を組織学的に検索した。幹細胞、分化型細胞ともに、γ線照射12-24時間後に細胞死の頻度が最も高くなり、照射12時間後における細胞死頻度の線量-効果直線は、低線量域(0.1-1.6 Gy)では線量に応じて急激に上昇するが、高線量域(1.9-4.75Gy)ではあまり上昇しないことがわかった。この結果は、雄生殖細胞集団には放射線誘発細胞死を起こしやすい亜集団が存在することを示しており、特に低線量放射線によって生じるゲノム変化は、これらの細胞の死によって効率よく排除される機構があることが示唆された。またHNI系統が細胞死高感受性系統であることもわかった。2.照射された生殖細胞に由来する受精卵の初期発生過程において、細胞死がどのように起こるのかをTUNEL法で調べた。その結果、γ線照射された精子由来胚の場合、少なくとも30Gy以下では嚢胚期以前には細胞死は検出されなかった。また、発生速度に対しても照射の影響は見られなかった。3.これらの結果から、雄生殖細胞に生じたゲノムの変化は、まず、生殖細胞の段階では「細胞死」というチェック機構によって効率よく排除されるが、受精後少なくとも初期胚の発生段階では、これらのチェック機構が作動しないことが示唆された。おそらく、嚢胚期以降の形態形成異常によって胚全体が致死にいたる現象(優性致死)が、発生淘汰の主な機構であろうと思われる。
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