メダカ初期胚発生の基本様式を理解するために、接合核からの転写が活性化するMBTの開始時期を北日本集団と南日本集団間の多型を利用して調べた。北日本集団由来HNI系統から作製されたESTマーカーのうち、HNI系統とT5系統間で多型がみられるものを選んだ。両系統のF1胚の桑実胚期、初期胞胚期、後期胞胚期、神経管形成期、並びに稚魚由来のcDNAを用いPCR反応を行うことで父性発現を調べた。その結果、多型がみられた10個のESTマーカーのうち発生段階10以前に父性発現を示すものはなく、最も早く父性発現が検出された時期は発生段階12であり、メダカのMBTは発生段階11から開始すると結論した。次にγ線を精子期に照射した場合、受精後、後期胞胚期までにTUNEL陽性細胞は全く観察されなかった。また第4分裂までの細胞周期を測定したところ、非照射群との間に違いはなかった。桑実胚期に照射した場合も、TUNEL陽性細胞は検出されず、発生遅延も全く見られなかった。一方、後期胞胚期以降に照射した場合にはTUNEL陽性細胞が検出され、発生速度が非照射群よりも遅くなった。これらの結果からMBT以前にはチェックポイントがなく、損傷を受けた細胞をアボトーシスによって排除する機構が作動しないことが示唆された。さらに、種々のアポトーシス、DNA修復および細胞周期関連遺伝子の発現解析を行った。DNA-PKcs、Ku70およびp53遺伝子は発生を通じて発現していたのに対し、ATM遺伝子は後期胞胚期で発現がみられなかった。いずれの場合も父性発現は後期胞胚期以降に始まることがわかった。これらの結果によりゲノム損傷の監視機構がMBTを境に大きく変化することが示唆された。
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