研究概要 |
γ線照射により雄生殖細胞に生じたゲノム損傷は(i)生殖細胞の細胞死とDNA修復、(ii)受精後の発生過程で生じる優性致死による2段階の淘汰を受けていると推測されている。本研究は、上記2点の解明を主な目的として行った。 γ線照射を受けた細胞では、細胞周期の進行が停止しDNAの損傷を修復するが、分化期にある哺乳類の雄生殖細胞では顕著な細胞周期進行の遅延は生じないと一般的に考えられている。そこで、4.75Gyのγ線照射後に分化型精原細胞と一次精母細胞をBrdUで標識し、標識細胞の分化段階を経時的に調べることで、アポトーシスでは排除されずに生き残った分化型精原細胞と一次精母細胞の精子形成に至る過程を解析した。その結果、一般的には雄生殖細胞の分化は放射線の影響を受けないと考えられていたが、本研究により、γ線照射を受けた分化型精原細胞期以降の細胞は、精子への分化が促進されることが示された。 さらに、γ線照射に対する初期胚の応答をアポトーシス、細胞分裂遅延並びに発生遅延の観点から調べたところ、ある時期を境に応答が変化することが示された。その変化する時期は接合核からの転写が活性化される中期胞胚変移(MBT)の開始時期と一致するのではないかと考え、MBTの開始時期を調べた。無作為に選んだ187個のESTマーカーからHNI系統とT5系統間で多型がみられる33個をさらに選んだ。両系統のF1胚の各発生段階(発生段階8,10,11,12,14,16,19並びに稚魚)由来のcDNAを用い、PCR反応を行うことで父性発現の開始時期を調べた。その結果、初期胞胚期(発生段階10)以前に父性発現を示すESTマーカーは存在しなかった。最も早く父性発現が検出された時期は後期胞胚期(発生段階11)であったため、この時期がメダカのMBTの開始時期であることが示唆された。
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