昨年までに解析したHd-rRのMHCクラスI領域約430kbの配列と比較するために、HNI系統の対応する領域、及びその隣接領域約550kbをカバーする4つのBACクローンを選定し、その全塩基配列を決定した。得られた配列データは昨年度購入のユニックス・コンピューターを用いた大規模情報処理によりHd-rRのものと比較して、メダカ種内のMHC多型の様子を解析した。その結果、両系統間で遺伝子の配置、向きなどはよく保存されているものの、遺伝子や遺伝子間隙の長さはかなり異なっており、それは主に反復配列の挿入・欠失によることが明らかになった。また、新たに見いだされた遺伝子を含めて4遺伝子がヒトオーソローグを12p13に有し、メダカのMHCクラスI領域は、ヒト6p21とともに12p13ともシンテニーを保っていることが示された。両系統間でホモロジー比較をしたところ、この領域の真ん中に約100kbに渡ってホモロジーの認められない部分があったが、その両側は約250kbに渡って96%の塩基配列の一致を示した。ホモロジーの欠如している領域には、PSMB8やクラスIA遺伝子が存在しており、系統樹解析では対応する位置の遺伝子が対立遺伝子の関係にないことが示され、この領域は単純な塩基置換ではなく、複雑な挿入・欠失・重複などにより進化していることが明らかになった。以上の結果は、メダカMHCクラスI領域には、病原体に対する適応進化と考えられる高度な多型を示す部分が存在することを示している。
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