これまでの培養細胞核を用いた核移植実験では奇形が多くみられる、ごく少数の個体が孵化するものの、幼生期を越えて成長するものはない。この原因を調べるために、β-Act/GFP-Nトランスジェニックメダカ由来の培養細胞や胚細胞の核を有核未受精卵に移植して個体の染色体像および核像の解析を行った。 培養細胞を用いた実験で、ドナーの遺伝的マーカーであるGFP蛍光を持つ4日または5日胚21個体を奇形の程度で(A)ほぼ正常、(B)異常、(C)強く異常の3グループに分けて、1個体につき10〜60の染色体標本を解析した。この実験では3倍体が得られることが期待できるが、(A)グループで33%、(B)グループで55%、(C)グループで14%が3Nにモードをもっていた。また、3N周辺にモードを持つ個体は全体の57%であった。この結果から、ドナーとレシピエントの核は半数以上の個体で融合していることが示唆された。しかし、すべての個体で異数性がみられ、個体は染色体数についてモザイクであることがわかった。異数性の程度は(C)グループがもっとも強く、奇形の程度との相関関係が示唆された。また、全体の67%の個体に染色体断片が観察された。このことも奇形との関係が考えられる。 染色体異常の原因を調べるために、胚細胞核を有核および除核未受精卵へ移植した個体、および培養細胞核を有核未受精卵へ移植した個体を2細胞期から胞胚期で固定し、ヘキスト染色を施して、蛍光顕微鏡下で核の状態を調べた。その結果、ドナーとレシピエントのいずれの組み合わせでも、すべての時期の胚で一部の割球間に染色体橋の形成が確認された。染色体橋の形成は強い奇形を引き起こすことが知られている。核移植個体にみられる奇形の原因の少なくとも一部は胚発生の非常に早い時期に起こる染色体の異常によるものと考えられる。
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