脂質代謝関連遺伝子の発現を制御する転写因子SREBPの機能解析、細胞内動態について解析を進めた。 SREBPファミリーの中のSREBP1に着目し、ヒトSREBP1を一過的に過剰発現するCHO細胞株を樹立し、SREBP1に応答する新たな遺伝子の単離を試みた。その結果、細胞質においてクエン酸からアセチルCoAを合成する酵素、ATPクエン酸リアーゼがSREBP1の発現に呼応して転写が亢進する遺伝子として見いだされた。ヒトATPクエン酸リアーゼ遺伝子のプロモーター領域をクローニングし、SREBPによる転写調節機構について解析を行った。その結果、この領域に存在するSREBP結合配列とそれに近接するNF-Y結合領域にそれぞれの転写因子が結合し、協調的に転写調節を行うことが明らかになった。この事実は、コレステロール代謝、脂肪酸代謝を制御する転写因子SREBPはコレステロール合成、脂肪酸合成の初発物質であるアセチルCoA合成に関与する遺伝子の発現に至るまで、広範囲の転写調節に関わっている事を物語っている。 SREBPは、小胞体膜上に前駆体の形で局在し、それが部分分解を受け、活性型が核へと移行する特徴を持つ。この機構を解析する過程で、活性型SREBPはβインポーチンに直接認識され核へと輸送されることを確認した。βインポーチンによる認識機構にSREBPの2量体形成が重要であるかについて検討を重ねた。ロイシンジッパー部位のロイシンに変異を導入し、2量体形成を阻害したところ、βインポーチンによる認識は低下し核への輸送も抑制された。従って、この輸送機構にはSREBPの2量体形成により提示されたドメインをβインポーチンが認識する過程が必須であることが判明した。
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