(1)分裂酵母の新規mRNA核外輸送変異株ptr10の原因遺伝子をクローニングし、解析を行った。ptr10は制限温度下において、mRNAの核への蓄積に加えて、生育速度の遅延、細胞体伸長、細胞壁形態の異常、核小体の分断化といった表現型も示した。ptr10では蛋白質の核内外輸送は正常であり、mRNAの核外輸送に特異的な阻害を示した。クローニングの結果、ptr10遺伝子はDnaJドメイン及び膜貫通ドメインをもつ新規タンパク質をコードしていた。局在解析の結果、Ptr10pは核膜を含む膜系に分布していることが示された。この因子は核膜に存在し、輸送に関わるATPase等の活性化に関与している可能性が考えられた。 (2)ヒトの手足形成不全を伴う遺伝性疾患の一つsplit hand/split foot病の原因遺伝子DSS1の分裂酵母相同因子の遺伝子をクローニングし、遺伝子破壊などの機能解析を行った。ヒトDSS1遺伝子の機能は全く不明であったが、分裂酵母DSS1遺伝子破壊株では、mRNAが核に蓄積し、この因子がmRNAの核から細胞質への輸送過程において、重要な役割を担っていることが示された。DSS1タンパク質は主に核に存在していた。また、分裂酵母のDSS1遺伝子破壊株におけるmRNA核外輸送阻害は、ヒトDSS1の発現によって機能相補可能であった。以上の結果から、ヒトDSS1は発生・分化段階特異的に特定のmRNA分子種の選択的核外輸送を調節する因子である可能性が考えられた。今後、mRNA核外輸送の選択的制御による発生・分化調節という全く新しい遺伝子発現制御機構のモデル系として解析を進める予定である。
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